二股の尾を持つ飼猫を捨てに行ったまま、消息不明になった百姓は…

  頃は  三月廿七日、根岸中むらの百姓元吉たくに、ある日くろぶちの尾二つあるねこまぎれきたりしを、
忰元二郎ことのほかねこずきゆへかい置あいしけるが、ふと元二郎なにやまいともなくわずらい付しが、
まいよねこが元二郎のよぎの上にてふししおみて、おやたちがねこのしよいかと
たびたびすててもすててもかへりしゆへ、そののちはよ人のてにあわつ、ただ元二郎のみをなづみしゆへ、
ははおやつきそいかのねこを元二郎にすてさせ、かうしんづかにてねこもろともにみうしないければ、
せんかたなくわがやへかへり、元二郎のかへりをまちしは三月廿七日のひる也ける。
それきりにてかへらづゆへ、むらむらの若者所どころへ手わけしてたづねし所、
四月九日天王寺のやぶより犬が死人のうでおくわいきたりしゆへ、もしやと心付さがせし所、
着るいのやぶれありしゆへに、両しんにみせはじめてねこのしよいなりと、みなみなおどろきあきれける。
あまりめづらしきゆへに一紙にのせ諸君にそなへるのみ。






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