明治42年4月23日午後2時頃、降りしきる雨の日に
 本所区長岡町の長屋に住む家屋斡旋業池田義敬の表口より、
どこからともなく子犬位の赤白斑の大猫が侵入、
台所で団扇を前足に挟んで立ち上がり座敷へやって来た。


妻が傍らにあった傘で猫を殴ろうとしたところ、
なんと猫は傘に前足を掛けて、妻のまねをし始めた。
怖くなりそのままにしておくと、やがて猫は立ち去った。


三時頃に再び縁側に現れて、
そこにあったハタキを持って踊りだしたのである。
妻が腰を抜かすと、それを尻目に猫は表口から出て行った。


厳重に戸締りしたものの、4時頃またも姿を現した。
台所の欄間から侵入したのだ。
妻が娘のオムツを投げつけると、今度はそのオムツを被って踊りだし、
やがて欄間から外へ出て行った。


翌日には同じ長屋の大工の家に侵入、手拭を被って踊っていたところを
こん棒で殴られてから姿を見せなくなったという。


近所では、雨の日にまた現れるのではないかと
もっぱらの噂である。



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