猫奇伝
    魔性の動物…「猫」の秘密
  
     
   可愛いだけが
  猫じゃニャィ!















子守唄


千葉    
ねんねこねてくれ、いいこだね。    
かんかち山のとら猫が、    
人さえ見れば、食いたがる。    
二人を見れば呑みたがる。    
いい子だね、ねんねしな


宮城
おらが婆さま、鼠子一匹とらまいて、
頭コそって髪ゆって、
ぼた餅売りに出したれば、
虎毛猫がはねてきて、
重箱がらみにみな食(か)れた。


群馬
おらがお背戸の遠背戸の、
忠右衛門どののおかみさんが、
あんまり子供をほしがって、
流しの下を掘りかいて、
ねんねこねずみを掘りだして、
さかゆき剃って髪結うて、
赤いべこきせて、てんてん車に乗せて、
飴かいにやったらば、
酒屋の猫にとられた。


愛媛
ねんねんねんや、
ねんねこ太郎八、弥五兵衛殿、
なんどの神様は、
あんまり子供が好きじゃとて、
つかまえて、
月代(さかやき)そって髪結うて、
あんもち売りにゆかせたら、
となりの猫めが飛んで来て、
売り子と共に食てしもた。


愛媛
ねんねこぼろろこ、さいろこや、
酒屋のかみさん子がのうて、
二十日鼠を抱きしめて、
猫よ守せよ、機嫌とれ、
それがいやなら嫁入りしょ、
嫁入り道具はなになにぞ、
箪笥に長持、挾箱、
ねんねんねんねん、ぼろろん。


茨城
ほらほら、やいやいねんねしろ、
おらの隣のおばんさん、
あんまり子供がほしいので、
ながしの下に米まいて、
京都ねずみをつかまいて、
さかゆき剃(す)って髪結って、
あしたは御殿の御普請で、
お菓子を売りにやったれば、
とらぶち猫めに見つかって、
あたまからお菓子まで食っちゃれた、
そらねろそらねろ、ごうとねろ。


東京
おらがとなりの爺さまが、
あんまり子供をほしがって、
京都鼠をとらまえて、
月代そって髪ゆって、
あすはお城の御普請で、
牡丹餅売りに出したれば、
石垣なんどのあいだから、
隣の三毛猫お出やって、
牡丹餅ぐるみにしてやった。


東京
ねんねん、猫の尻(けつ)に蟻が這いこんだよう、
やっとこすっとこほじくり出したら、
また這い込んだよ。


東京
ねんねん猫のみんみへ、かにがはいこんだ、
やっとでそばき出したら、またはいこんだ、
寝ろってばよう寝ろってばよ。


千葉
ねんねこ猫の尻、蟹が這い込んだ、
お母さんとってくれまた這い込んだ、
お父さんたまげてお茶こぼした。


山梨
ねんねん猫の尻(けつ)に蟹がはいこんだ。
そりょうを見てお婆さんが洟たらした。


山口
ねんねこ猫の尻に蟹がはいこんで、
ようようのけたらまたはいこんだ。


埼玉
ねんねん猫の尻(けつ)、蟹が這い込んだ、
よいとこせと引っ張り出したら、また這い込んだ。


群馬
ねんねん猫の尻(けつ)に蟹がはいこんだ。
やっとこさで引きずり出したら、 またはいこんだ。


山梨
ねんねん猫の尻(けつ)に蟹がはいこんだ。
うんとこしょと引じりだいだら、 またはいこんだ、
あの猫(ねか)可哀そうだ、可哀そうだよ。


広島
ねんねん猫の尻に蟹がはいりこんで、
婆さんがひっぱりだしや、 またはいりこんだ。


群馬
ねんねん猫の尻(けつ)、蟹が入りこんだ、
一匹だと思ったら二匹入り込んだ、
お母ちゃん魂消(たまげ)てお茶こぼした
お父ちゃん魂消て鎌投げた。


栃木
ねんねん猫のけつ、蟹がはさんだ。
おう痛(いて)いと思ったら、またはさんだ。


新潟
ねんねん猫の尻、蟹がはさんだ、
婆さん取ってくりゃれ、またはさんだ。


栃木
ねんねん猫の尻尾に火がはねた、
ばあさん魂げて水かけた。


福島
ねんねん猫のけつに火が跳ねた、
婆さまたまげてお茶かけた。


広島
ねんねんねっころしに火が飛んで、
婆さん魂消(たまげ)てお茶かけた、
お茶より水の方がよごだんす。


千葉
ねんね猫の尻、蟹がはさんだ、
一つかと思うたら二つはさんだ、
二つかと思うたら三つはさんだ、
三つかと思うたら四つはさんだ、
四つかと思うたら五つはさんだ、
五つかと思うたら六つはさんだ、
六つかと思うたら七つはさんだ、
七つかと思うたら八つはさんだ、
八つかと思うたら九つはさんだ、
九つかと思うたら十はさんだ、
ねんねこ寝ないとはさまれる。


千葉
ねた子にゃ米の飯、とと汁だ、
猫にゃ冷飯、ぽろぽろ大根汁だ。


岩手
子供達(わしゃらど)子供達、
馬コはなしに行かんか、
とっちの方え行かんか、
南の方に行かんか、
仏の油をぬすんで、
はようの町さ行ったれば、
犬コにわんて吠えられて、
猫コにどろっこしめられた。


秋田
あねコどこさいく、
葛籠(かつこべ)コなどさげだねが、
猫ね食わせる、 泥鰌(ほんじょう)コ取ねえがとて行て見る、
もしか泥鰌コいんねがら蝦(えんび)まざりの小雑魚、
笊コもて掻(かつ)ちゃぐる。


長野
ゆうべ、夢見た、
お寺の裏で、
猫が三味ひく、南瓜が踊る、
あかとうがらしがお手叩く。


岐阜
ゆうべ夢見た、お寺の裏で、
猫が三味ひく、
閻魔が踊る、
赤い唐辛手をたたく、
ゆうべ夢を見た、地獄の夢を、
鬼が餅つく、閻魔がちぎる、
やせた地蔵さん、たべたがる、たべたがる。


山梨
おらの親父は猫食って死んだ、
猫はこわいもんだ、命とる。


兵庫
うちのねえさん二階から落ちて、
茶碗ぶちわり、猫ふみ殺す。


兵庫
茶碗だんない猫こてまどて、
買うてまどいます、虎猫を。


長崎
親の罰かい天罰かい、
木鉢の端(はな)から眺むれば、
猫がねらった鼠島、 たった一噛み神の島。


大阪
こうと光徳寺のお寺の縁で、
猫が衣きて鉦たたく。


兵庫
うちのおとつぁん、鼠の羽織、
油断さすんな、猫が取る。


京都
ちいんわん、 猫にやんちゅう、
金魚に放し亀、
牛もうもう、こま狗に鈴がなる、
蛙が三つで、三ひょこ、三ひょこ。


京都
わしの小さい時、おとらというたが、
今は七倉の庄屋の嫁、
庄屋の嫁さん子が無(の)て不自由な、
猫を子にしておとらとつけて、
おとらちゃとこい、乳のまそ。


滋賀
うちの姉さん子が無うて不自由な、
猫を子にしておとらとつけて、
おとらちょっと来い、乳のます。


大阪
うちのねえさん、子猫が好きで、
猫を子にしておたるとつけて、
おたるこいこい、乳のまそ。


香川
うちのねえさん子がのうてこまる、
猫を子にしておとらとつけて、
おとらこっちい来い、乳のます。


兵庫
うちの猫の福一は、
女房がのうて、 二十日鼠を子にもろうて、
きりぼし買いにやりよって、 猫が見つけてひとかぶり。


和歌山
ねこねこねこねこ申そうなら、
おそろし猫は山猫じゃ、
楽しい猫は三毛猫じゃ、
きたない猫ははい猫じゃ。


石川
天竺のおばさんが、
お子が無うてさびしかろ、
二十日鼠をつらまいて、
元服させて髪結うて、
上下着せて出いたらば、
隣の猫がちょかいかけて、
明日から内のお兄さま。


石川
猫はだまとる、鼠がおどる、
噺せ噺せよ、どんちゃんちゃん、
おどる、だまとる、おもしろい。


三重
守も小守も子のないうちは、
猫を子にして抱いて寝る。


福島
向かいの山から、
雌ん鳥雄ん鳥飛んで来た、
雌ん鳥奴のいうことにゃ、
猫の腹に子がある、
男なら助ける、
女子ならぶっ潰せ、
名はなんとつけ候、
八幡太郎とつけ候、
八幡太郎のお厩に、
馬なん匹たて込んだ、
中のよい馬に油ひいて鞍おいて、 とっくとっくと乗って行こう、
観音堂がせきならば、
かたくずして堂築(つ)いて、
堂のあたりさ種蒔いて、
菊の花も十六、お姫も十六、
お姫が油買って行くどって、
すめり転んであしてま噛まれた、
猫殿猫殿、許してくりゃれ、
明日の市に鰹節買うて、
振舞い致しましょう。


佐賀
ねんねんねんよ、
ねんねせにゃ、
猫(ちょうちょ)がうち食うよ、
酒屋がいやなら米屋ねこ、
ねんねんねんよ、ねんねしな。


石川
ねんねの母(じやま)どこへ行った、
向こうの山へ花切りに、
菊や牡丹の花切りに、
一本切っては腰にさし、
二本切っては振りかたね、
三本目には日が暮れて、
歩けど歩けど宿がない、
雀の小宿をちょっと借りて、
莚は短し夜は長し、
朝きり起きて空みたら、
雛(ひんな)のような女郎たちが、
参らんか参らんか坂三郎、
そこらの肴はなに肴、
塩瓜、唐瓜、南蛮(なんば)瓜、竹藪の筍、
石なの狭間のつくつんぼ、
それを切って煮てみたら、 あんまり塩がしょむのうて、
醤油をちょっこり差いたれば、
あんまり塩が辛うて、
犬に食わしても食わず、
猫に食わしても食わず、
隣の嬶(はば)さが、かがたを借りにちょいときて、
一杯食わんかと言うたらば、
お爺(とと)の椀に十三杯、
お母の椀に十三杯。


岡山
おばさん死んだらどうするなあ、
お墓へ泣き泣き行て見たら、
松が三本、杉三本、
ちょうどあわせて十六本、
上には鳥が巣をかける、
下には猫めがねらようる、
やれやれけうとのおばさんよ、 おばさんよ。


秋田
かみから、かみから、比丘尼(ひくに)三人くだた、
先の比丘尼物知らず、
後の比丘尼物知らず、
中の比丘尼物覚(お)べて、
かたたさおれて、
つぎ切れ百きれ捨て、
洗い場で洗て糊つけ場で糊つけて、
乾(ほ)し場で乾して縫い場で縫って、
綿せ場で綿せて、絎(く)け場でくけて、
次郎ごに着せろか太郎ごに着せろか、
太郎ごに着せれば次郎ごぁ怨みる、
次郎ごに着せれば太郎ごぁ怨みる、
向(むきあ)のやしやし弥太郎に着せて、
浜帯させて、浜笠かぶせて、
どこまで送る、浜まで送る、
浜の鼠だ、余(あんま)り、悪(わ)り鼠(ねんずみ)で、
仏の油すん盗で、 しちゃごちゃつけて、
今日の町ちゃ立ったりば、 犬にわんと吠えられて、
あしたの町ちゃ立ったりば、猫に頭(かあしら)かんまれて、
猫殿、猫殿、鯡三本(にしさんぽ)で許しゃんせ、 許しゃんせ。


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北原白秋(1974)『日本伝承童謡集成〈第一巻〉子守唄編』三省堂