猫奇伝
    魔性の動物…「猫」の秘密
  
     
   可愛いだけが
  猫じゃニャィ!















わらべ唄


福島
お月さまいくつ、十三七つ、
まだ年若いな、
おまんがどこへいった、油買い坂へ、
油屋の前で、油一升こぼった、
その油どうした、猫めがなめた、
その猫どうした、犬めがとった、
その犬どうした、 次郎と太郎が太鼓に張って、
ぶつぶつぶって、ぶっさいた。


福井
お月さんいくつ、十三七つ、
そりゃまだ若い、
おんばばどこへ、北ごの果てへ、
油屋の前に、氷が張ってあって、
滑って転んで、油一升こぼいた、
その油どうした、鼠がねぶった、
その鼠どうした、猫がとった、
その猫どうした、犬がとった、
その犬どうした、皮屋がついた、
その皮どうした、太鼓に張った、
その太鼓どうした、お寺へあげた、
その寺どうした、燃えてしもた、
その灰どうした、灰屋へ売った、
その銭どうした、こんの家(ち)の誰誰さんと、
隣の誰誰さんと、 飴買うてべえろべろ、
砂糖買うてべえろべろ。


奈良
お月さんなんぼ、十三七つ、
まだ年ゃ若いな、
わかやのかどで銭十三文ひろた、
その銭で油買うて、
隣の猫来てぶっちゃけた。


岡山
お月さまなんぼう、十三九つ、
そりゃまだ若いぞ、 若い時に子を生んで、
おせんに抱かしょう、 おまんにおわしょう、
油買いに酢買いに、油屋の門で、
すべってこけて、鼻血をだして、
その鼻血をどうしたら、 猫がねぶってしもうた、
その猫はどうしたら、 犬が食うてしもた、
その犬はどうしたら、 牛が食うてしもうた、
その牛はどうしたら、 太鼓に貼って、どんどんどん。


山形
雪こんこんこ、 お寺の前にいっぱい降った、
お小僧、お小僧、 早く起きて掃かしゃれ、
掃かぬと和尚さんに叱られる、
烏かんのと山からくちばしつん出して、
猫にちょっかいかけられて、 痛いとてひんこんだ、
さあさ、居雪船(いそり)行くぞ行くぞ、 足噛んだら、
一貫三百三十三文銭取るぞ。


山梨
風、風、吹いちょ、
猫のしっぽをくうれるで。


石川
ぼたぼた雪の降る時は、
猫の尻ゃ灰だらけ、
乞食(やつこ)の尻は寒晒し。


福岡
雪やこんこん、霰やこんこん、
お寺の柿の木、みな降りつんだ、
なにかと思えば、 猫の鼻から鼻血が出る出る。


群馬
猫、猫、じゃれろ。


群馬
うちの隣の三毛猫が、
白粉つけて紅つけて、
小さい橋を渡るとき、
人に見られてちょいとかくす。


群馬
猫さん、猫さん、どこ行くの、
わたし足袋屋へ足袋買いに、
幾文履くの、にゃにゃもん半。


福島
向こうの山さ雌鳥雄鳥飛んで来た、
雌鳥だらぶっつぶせ、 雄鳥だら置き候、
名は何と附け候、 八幡太郎と附け候、
八幡太郎のおん馬屋さ、 馬なんぼたてこんだ、
四十六匹たてこんだ、 草なんぼ刈りこんだ、
四十六把刈りこんだ、 どっこどっこと乗ってって、
高山崩してどうついて、 油の中さつっぱいた、
猫どんどんあしたの市に、
買って呉れべだら、 いらない魚(とと)の骨だろよがんべ。


青森
鼠コ居だ、猫コねかってみつけられ、
逃げだも逃げだも、どこまで逃げた、
炬燵の上コさ逃げだ、
猫コきた、炬燵の上で寝てしまた。


福島
山猫が、猿のけづ、ぶっ裂いだ。


秋田
けなれ、けなれ、
猫、猫、鯡呉(け)ら、尻尾振れ。   
〈注〉猫が鼠を捕った時に褒めてうたう。


青森
かささき看板、唐猫コ、
姉コそだでた、ぶぢ猫。


和歌山
やんま、こっち来うの、
猫に怯えて来うかいの。


奈良
とうととと、
にゃんにゃんに噛まれて鳴くなよ。


岩手
猫コにゃんごといえば、
早く金持って逃げろやい、
ぎゃぐ、ぼがぼが。


福島
猫どん、猫どん、
あしたの市日に買ってくれべ、
だらいらない、 魚(とと)の骨だら、よかんべ。


秋田
昨日の仇コなんとした、
猫がて食(くわ)いだ、
その猫連(つつ)でけ、 にゃおにゃお。


山形
猫鼠とり、いたぢわらえ、
しゃんしゃん。


青森
百になる婆さま、猫の皮きせて、
鼠とれとれ、爪コ無ばとられねえ、
金の釘コ曲げて、それでこそよかろ。


岩手
猫じゃ猫じゃと、
おしゃますな、 猫は下駄はいて杖ついて、
絞のゆかたでくるものか、
おっきょこ、きょいのきょい。


山形
猫と鼠が、藁ぶって、 ちょん、ちょん。


静岡
猫、猫、いまに暑さも寒さも来るに、
夜着や布団をたたんでおけよと、
にゃごにゃご。


愛知
猫が嫁入りせる、いたちが仲人、
二十日ねずみが三升樽下げて、
一本橋ちょいちょいと。


三重
鼬ごとごと、鼬耳よし猫耳わるし、
もういっぺんみせたら、なおよかろ。


石川
烏、烏、どこへ行く、
千石山へ胡麻まきに、
何石何石蒔いて来た、
三石三石蒔いて来た、
千石山のおばさまは、
子がおらいで淋しかろ、
二十日鼠をとらまえて、
元服さして髪結うて、
長右衛門と名をつけて、
おやき売りに出いたらば、
隣の猫がちょいと来て、
ひっくわえてしもうた。


新潟
提灯消したか大暗闇、
猫ふんだか、にゃぐにゃぐ。


長野
ようくかくねろ金鼠、
虎毛の猫に捕られるな。


大阪
猫が鼠とる、いたちがわらう、
ちょんちょん。


兵庫
猫が鼠とる、いたちが追いかける、
よいよい。


奈良
猫の足跡、梅の花、
鶏の足跡、もみじの葉。


兵庫
猫が嫁入りすれゃ、
鼬鼠が仲人、
二十日鼠が五升樽さげて、
裏の細道こそこそ。


奈良
ちゅうちゅう鼠、棚から落ちて、
猫に追われて、小便たごへどんぶりこ。


岡山
いたち、顔見せ、 猫の顔ときゃたいやろ。


岡山
鼬、いたち、顔みせいたら、
いたちの顔はきたないぞ、
猫の顔とかえてやろ。


山口
ねずみ、ねずみ、ようかごめ、
後ろから猫がついていく、
そらそらそら、早よういこう、
そら来い、はようこの内へ。


広島
猫が鼠とりゃ鼬が笑う、
鼬笑うな、われも取れ。


高知
からす、からす、どこへゆく、
裏の山へ穂ひろいに、
何升何合ひろてきた、
一升五合ひろてきた、
爺の皿に一杯と、婆の皿に一杯と、
嫁の皿に足らいで、
嫁がしくしく泣きだいて、
嫁嫁泣くな、甘酒作って飲ますぞ、
どう、その甘酒は、
猫がねぶって候、
どう、その猫は、ぶち殺いて候、
どう、その皮は、太鼓に張って候、
どう、その太鼓は、 昨日の踊りにうち破って候、
どう、その破れは、風呂に焚いて候、
どう、そのあくは、瓜にかけて候、
どう、その瓜は、鳥が食て候、
どう、その鳥は、 あっちの山でばしゃばしゃ、
こっちの山でばしゃばしゃ、
ばしゃばしゃ山の真ん中で、
木綿一反ひろうて、 わが子に着せれゃ人の子が着たし、
人の子に着るれゃわが子が着たし、
京のお従兄弟に裁って着しょう、 たって着しょう。


福岡
猫に面(つら)ずっと見るばってん、
鼬の面ちいん見ん。


福岡
猫が鼠捕りゃ、鼬が笑う。


長崎
猫しっぼんとんぎった、 腹かいてぶっとした。


長崎
へろろ、へろろ、ぬすと猫、
横丁のかんぼこ、ぬすとして、
一丁、二丁、さいの、さいの。


青森
ぼう、ぼう、ぼっくり、山大根(だいご)、
赤猫そって、ぶっころんだ。


秋田
こっちこよ、こっちこよ、柳の下で、
大きくなあれ、いまに猫(ちゃこ)来てくんて。



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北原白秋(1974)『日本伝承童謡集成〈第二巻〉天体気象・動植物唄編』三省堂