猫奇伝
    魔性の動物…「猫」の秘密
  
     
   可愛いだけが
  猫じゃニャィ!















戯唄・・・手毬唄  その二


埼玉
高い山から谷底みれば、
猫が嫁とる、いたちが仲人、
二十日鼠が貧乏樽さげて、
裏の細道ちょこちょこまいる、
まずまず一貫おん貸し申した。


群馬
おかよかよかよ勘平さん、
ひとり娘をやるからね、
家も畑もなくしもするが、
ゆうべ取った花嫁御、
今朝の座敷に出したらば、
めそりめそりとお泣きやる、
なにが不足でお泣きやる、
小袖の裾に血がついて、
それは血じゃない、 ゆうべ化粧した紅じゃもの、
洗い川で洗って、濯ぎ川で濯いで、
しぼり川でしぼって、 表へ干せば人が見る、
裏へ干せば犬が見る、 二階に干せば猫が見る、
馬屋に干せば馬が見る、 行燈のふすまに干したらば、
あれお母さん、歯かけ鼠がひいて行く。


埼玉
おらがお背戸のおせさんなんぞは、
しもさあかもさあ、かもさか前の、
源太郎様から手紙がまいった、
なんとてまいった、
今日の今晩、三日の朝に、
牡丹の花が咲いて落ちるか、 ちぢんで落ちるか、
猫がじゃんじゃん手ばたきしょ。


群馬
猫や猫や、
お客が来たからお蒲団だしな、
にゃあごにゃあご、 まずまず一貫かしました。


栃木
日光の日光の観音様が、
俵てねずみを一匹とらまいて、
さかゆきすって髪結って、
ぼたもち買いにやったらば、
隣の猫にしめられた、しめられた。


岩手
仙台の、仙台の、 大橋普請のその時に、
煙草切り屋の姉さんは、
鼠を一匹飼って置いて、
赤い法被コちょっと着せて、
饅頭コ売りに出したれば、
隣の猫さんちょっと出はって、
猫さん、猫さん、許さんせ、
今度のお盆にかして上げる、 一丁、一丁。


岩手
鼠子コ一匹そだてたば、
あたまコすてけ、髪コゆて、
饅頭コ売りにやったれば、
となりの猫さん、ちょっといぎぁて、
猫さん猫さんゆるさんせ、
こんどの晩までゆるさんせ。


岩手
おらが弟千万さまは、
七つ八つから金掘りだして、
金をほるやら、掘らぬやら、
一年待ってもまだ来ない、
二年待ってもまだ来ない、
三年三月の夜の夜中に伏がきた、
誰に来いとて伏がきた、
おせんにこいとて伏がきた、
おせんがいないもの、死んだもの、
今日さ七日の墓参り、
墓のぐるりさ線香たてて、
線香のぐるりさ粉まいて、
粉を何石まいてきた、
さらり三石まいてきた、
三石やの女郎は、
馬に乗ってへんぞって、
赤いねんねこ汚して、
おとうさんに叱られべ、
おかあさんに叱られべ、
洗場で洗って、ゆすぎ湯でゆすいで、
糊つけ場で糊つけて、
座敷を通る、雪がふる、
井戸を掘らせば雪が降る、
隣の婆さん猫かっさい、
猫がないもの、死んだもの、
屏風のかげでにゃごにゃご、一こついた。


福島
おらのおかっさん猫真似上手、
棚にあがってにゃごにゃごと、
にゃごにゃごと。


福島
おらがお瀬戸の早早坊さま、
池の中から鮒つり上げて、
焼いて焦がして戸棚に入れて、
猫にとられて南無三宝。


岩手
おらが後ろの白ねずみ、
なかずりすって髪結って、
あん餅売りに行ったれば、
隣の三毛猫ちょっとではって、
あん餅がらみみな食(か)れた、 みな食れた。
宮城
俺らが後ろのおたえ子さまよ、
猫コだまして一文なり、二文なり、 三文なり、四文なり、五文なり、
六文なり、七文なり、八文なり、 九文なり、十文なり。


宮城
俺が後ろのおじさんが、
鼠コ一匹とって来て、
頭コ結ってくれて剃ってくれて、
?餅売りにやったれば、
隣の猫コにみな食(か)れた、 みな食れた。


宮城
俺ぁ寝所さ、ぼろ穴あいた、
猫もくぐれば鼠もくぐる、
猫の真似してにゃおにゃおと、
よいとんついて一貫かした。


宮城
俺が伯母さん四十八島田、
嫁に行くときゃ孫女に笑(わ)られ、
孫女笑うなお里の国で、
猫が嫁とりゃ鼠が仲人、
蝶蝶とんぼが一升樽下げて、
猫の細道ちょろちょろと、一貫しょ。


福島
俺が後のおじさんが、
鼠コ一匹とってきて、
頭コ結って呉(け)て剃って呉て、
?餅売りにやったれば、
隣の猫コにみな食(か)れた、 みな食れた。


福島
昨夜、貰った花嫁御、
大飯八杯、汁九杯、 なます七皿、酒三升、
あいぎの座敷さ坐らせて、
べそりべそりと泣いている、
なにが辛くて泣いている、
金襴緞子の帯縫いない、
帯が縫いなきゃ出てゆけ、
下道通ればおっかないし、
上道通れば恥ずかしい、
向こうの細道通ったらば、
田辺の伯父さんに行き逢って、
お小袖三枚貰って、
したの小袖に血がついた、
血ではあるまい紅だわい、
一度洗ってもまだ落ちねえ、
二度洗ってもまだ落ちねえ、
三度洗ったらちゃんと落ちた、
二階さ乾せば猿舐める、
いろりさ乾せば猫舐める、
猫待ちや猿待ちや、
飲みかけお茶でも飲んでゆけ、
食いかけ餅でも食ってゆけ、
飲んで行け、くって行け。


岩手
猫は絣のゆかたに高足駄、
からんころんぎゃぁ、からんころんぎゃぁ、
まずまず一貫貸しました。


宮城
仙台で、仙台で、 大町ころの中頃で、
鼠一疋つかまえて、
月代剃って髪結うて、
牡丹餅売りに出したれば、
隣の唐猫ちょっと出来て、
牡丹餅がらみに占め込んだ、 占め込んだ。


福島
向かいの山から雌鳥雄鳥飛んで来た、
雌鳥奴のいうことにゃ、 猫の腹に子がある、
男なら助ける、女子ならぶっつぶせ、
名は何と命(つ)け候 八幡太郎と附け候、
八幡太郎の御厩に馬何匹立て込んだ、
四十六匹たてこんだ、
仲の良い馬に油ひいて鞍置いて、
とっくとっくと騎(の)っていこう、
観音堂がせきなくば、
かたくずして堂築(つ)いて、
堂のあたりへ種蒔いて、
菊の花も十六、お姫も十六、
お姫が油買いに行くとって、
すめりて転んで、あしてま噛られた、
猫どの猫どの、ゆるして呉りゃれ、
明日の市に鰹節買うて、
御振舞いたしましょう。


福島
向かいの山に雌鳥雄鳥飛んで来た、
雌鳥奴のいうことにゃ、
姉御の腹に子がいた、
子がいたはいいことよ、
女子ならぶっつぶせ、男だら助けろ、
名は何とつけろ、 八幡太郎とつけろ、
八幡太郎の御厩に馬何匹立て込んだ、
四十六匹たてこんだ、
中の馬の毛いろは、
油引いて鞍置いて、
どっこどっこと乗っていこ、
観音堂まで乗って行く、
片山崩して堂築いて、
堂のあたりさ花蒔いて、
次郎どんの十袴、
太郎どんのたつ袴、
畳めばたのかみ、
伸ばしゃ菊の花よ、
菊の花も十四(よつ) の娘子が油屋さ突入(つっぱい)て、
猫に鼻かじらっちゃ、
猫どの猫どの、赦してくりゃれ、
今度の市見に鰹買っておんましょう、
鰹なっていらない、 ねじりがちゃかりがち、
鼠こそいいことよ。


岩手
からすあっぱ、どっちゃいった、
ばんじょ超えてしょ超えて、
麹買いにまがった、
なんぼ麹買ってきた、
一升五合買ってきた、
師匠どん女郎は神の前ではらんで、
仏の前でぶんだして、
そのおぼこの名はなんと申します、
つくつん太郎と申します、
つくつん太郎は馬屋になんぼ馬買いこんだ、
四十六匹買いこんだ、
どの馬の毛色はええ、 中の馬の毛色はええ、
油めいてとろめって、 貝ですった鞍おいで、
錦の手綱をゆらかけて、 どこまで乗ってった、
鎌倉の鼠はあんまりわり鼠で、
仏の油ひてえこびき、ひんのして、
今日の町に立つべいが、 明日の町に立つべいが、
京は天竺八日町、 八日町に立ったれば、
犬にわんと吠えられて、 猫ににゃんとえがまれて、
犬どの犬どのゆるさんせ、 猫どの猫どのゆるさんせ、
百に米は一石十文、酒は十ひさげ。


岩手 
お城のさい子さんは、 お猫コだまして、
お茶碗ぶっ欠いて、
継ぐにつがれず、買うに買われず、
一文めえられ、二文めえられ、 三文めえられ、
四文めえら、 五文めえられ、六文めえられ、
七文めえられ、八文めえられ、 九文めえられ、十文めえられ。


岩手
うしろの才子さん、 猫コだまして一匁、
られらあれ二匁、 られらあれ三匁、られらあれ四匁、 られらあれ五匁、
られらあれ六匁、 られらあれ七匁、られらあれ八匁、 られらあれ九匁、
られらあれ十匁、 られらあれ、とんとかやして、
うしろのおさむらい衆は、 お駕籠でお急ぎ、
とちゃまどん、 しなずきどん、さいたかどん、 どんどとせ、
一や二う、三いや四、 五つ六、七八、九つ十、
十でお前さんにい一丁貸しました。


岩手
おかねこおはつこ、 お猫コだまして、
お茶碗ぶかして、 つぐもつがれぬ、
買うも買われぬ、
一文めえられ、二文めえられ、 三本柳さ雀巣をくて、
落ちて鷹にさらわれた、
清助、清助、あんどだ、 六角娘さ、ほれなき人は、
猫か、鼠か、鶏か、 となり屋敷の直治さん。


岩手
一う二う左まき、お寺の小僧コ、
晩にござらば窓からござれ、
猫の真似してにゃおにゃおと、
にゃおにゃおと。


福島
これのお庭に小池を掘って、
深い深いとみなさん仰言る、
深くないもの、浅いもの、 こ
れのお庭に柴垣結って、
猫もくぐれば鼬もくぐる、
十七八ならみなくぐる。


岩手
山寺の和尚さんは毬がつきたい、 毬がない、
子猫小袋につめこんで、
ぽんと蹴りゃにゃんと鳴く、
おにゃんにゃのにゃん。


岩手
山寺の和尚さんが毬をつきたい、 毬がない、
ちょいと小袋さ猫入れて、
ぽんとつけぁにゃお、 ぽんとつけぁにゃお、 おにゃにゃのにぁ。


青森
橋の下に六地蔵、
鼠に頭を噛じられて、
鼠こそ地蔵だ、
鼠地蔵だらなしに猫に捕られべな、
猫こそ地蔵よ、
猫は地蔵だらなしに犬に捕られべな、
犬こそ地蔵よ、
犬は地蔵だらなしに狼に捕られべな、
狼こそ地蔵よ、
狼地蔵だらなしに火にまかれべな、
火こそ地蔵よ、
火は地蔵だらなしに人に飲まれべな、
人こそ地蔵よ、
人は地蔵だらなしに地蔵拝むべな、
真の地蔵は六地蔵。


石川
こんのあんにゃまは子がなくてならぬ、
猫を子にしておつるにつけて、
おつまちょっとこい、子にくれる。


石川
どんどん叩くは誰さまや、
新町米屋のおあんさま、
今ごろなにしにおいだいた、
雪駄がかわってまいりました、
雪駄の緒はなに緒や、
そりそり緒のそり緒や、
ととはとっくり、かかはかんなり、
うちの嫁さは魚焼くてて、
猫にとられて、
猫を追うとて石に蹴つまづいて、すっとんとん、
も一つかやいて、すっとんとん。


石川
せんせん船頭の乙娘、
顔は白壁、目は水晶、
こんどお嫁に行く時は、
朝疾く起きて窓明けて、
窓の明かりに髪結うて、
爺さん婆さん、おひんなり、
お茶もどんどん沸いとるし、
お風呂もどんどん沸いている、
どんどん叩くは誰さまや、
千松米屋のお爺さん、
今頃なんしに参りやした、
雪駄がかわりて参りやした、
雪駄の緒はなに緒や、
赤と白との交り緒や、
家の女中は肴焼くとて、猫にとられて
猫を追うとて敷居につまづいて、
涙ほろほろすりとんすりとん。


福井
せんせんせんどの乙娘、
顔は白壁、眼は水晶、
こんど嫁入りする時は、
朝早よ起きて窓開けて、
窓の明かりで髪結うて、
白粉塗って紅差いて、
爺さん婆さん、おひんなれ、
お茶が沸いたあおひんなれ、
とんとん叩くは誰さまじゃ、
千松米屋のお爺さまじゃ、
朝からなんしにお出たぞ、
雪駄がかわってかえに来た、
お前の鼻緒はなに鼻緒、
そりそり鼻緒のそり鼻緒、
有ったら見出して返しましょ、
父親はとっくり、母親は燗鍋、
娘茶碗で引掛けた、
家の丁稚、雀焼くてて、
猫にとられて猫を追うとてて
敷居にけつまづいてすっとんと、
もひとつかやいてすっとんと。


石川
おゆきの父さんどこ行った、
金が湧くてて金山へ、
一年経ってもまだ来ん、
二年経ってもまだ来ん、
三年三月の朝の六つのお伏やいの、
誰に来いとのお伏やいの、
お雪に来いのお伏やいの、
今年は一年やられまい、
来年二十になったらば、
赤い小袖の一重ね、
箪笥、長持、鋏箱、
傘笠や十二蓋、足駄や木履十二足、
お歯黒壺や馬につけ、
これほど仕立ててやるときにゃ、
必ず出て来と思うまいが、
なんで出て来や、
窓の明かりで髪結うて、
白粉塗って紅さいて、
爺さん婆さん起きさんせ、
茶釜がどんどん湧くわいね、
茶釜の湧くとこどこやいね、
千日町のお米やいね、
早うから出て何じゃいね、
雪駄が替って参りみした、
雪駄の緒はなんじゃいね、
しょっしょり紐のしょり紐や、
あったら取って行くまっし、
無けねや買うて上げる、
こんのべいやは、雀焼くてて猫にとられて、
猫を追うとて敷居にけつまずいて、
涙ほろほろすっとんとん。


富山
うちの裏の黒猫が、散髪へ行って、
風呂へ行って、白粉つけて紅つけて、
人に見られてちょっとかくす。


富山
家のうらのでこちゃんが、
お白粉つけて紅つけて、
猫に紙袋をかぶせて、
ちょいとかくれた。


富山
隣のおばさん子を持たず、
はしかい鼠を捕まえて、
床の間の上に坐らせて、
赤い頭巾かぶらせて、
白い頭巾かぶらせて、
猫にとられて、ちゅう、ちゅう。


石川
おじじさま、 天竺のばあさまが子がおらえで淋しかろ、
隣から鼠を一匹借って来て、
横座(よこじや)にきっちり坐(ねま)らして、
けんぷくゆうて、髪ゆうて、
おやこはおへこへだいたれば、
となりのどす猫ぁすかためた、 すかためた。


石川
うちの裏の黒猫が、
散髪行って風呂行って、
紅がないので買いに行って、
人に見られてちょいとかくす。


石川
裏の細道、飛んで出たら、
猫の嫁入り、鼬の仲人、
二十日鼠が出たり入ったり、
ちゅう、ちゅう、ちゅう。


                       猫の伝承童謡へ戻る


北原白秋(1975)『日本伝承童謡集成〈第三巻〉遊戯唄編(上)』三省堂
北原白秋(1975)『日本伝承童謡集成〈第四巻〉遊戯唄編(中)』三省堂