猫奇伝
    魔性の動物…「猫」の秘密
  
     
   可愛いだけが
  猫じゃニャィ!















歳時唄


茨城
お正月どこまで、 ばんじょ山の陰まで、
なに土産持って来た、
小豆餅、切餅、笹葉にくるんで、
太郎めにひかせて次郎めに負わせて、
上の道通ったれば、 犬めにわんと吠えられて、
下の道通ったれば、 猫めににゃんと啼かれて、
中の道通ったれば、 紅い巾着めっけで、
太郎めにやれば次郎めが欲しがる、
次郎めにやれば太郎めがほしがる、
太郎めと次郎めに半分こして、 やっちゃった。


山形
お正月どこまで、 きりきり山のこっちまで、
おみやげなになに、 鰊と昆布とからいお、
猫のまたの串柿、 じょっこさかせるどて、
じょっこかんねどて、つんだした、


山形
正月、正月、どこまで来たば、
くるくる山のこっちまで、
みやげなあになあに、
鰊(にし)ど昆布とから魚(いお)、
猫の股の串柿、
じょっこ食(け)えどて、突出(つだ)したば、
じょっこ食(か)ねどて、誰が食(く)た、
隣の婆達、みな食いあがた。


富山
正月さん、正月さん、
どこどこまでお出でた、
倶利加羅山までござった、
お土産はなんじゃ、
榧や勝栗、密柑、橘、 あまに吊った串柿、
犬のふんだ橡餅、 猫のふんだかい餅。


石川
正月さん、どこまでいらした、
山のころころ橋の下までいらした、
お土産はなにやった、
榧や勝栗、密柑、柑子(こじ)、橘、犬のふんだ年餅、
猫のふんだ粥餅、 あまの裏の串柿。


石川
正月さん、正月さん、 どこまでござった、
ごろごろ山の山までござった、
土産なんじゃ、 密柑、柑子(こじ)、橘じゃ、
天(あま)から下りた串柿と、
猫のふんだ粥餅と、
座敷(でい)の隅の辛酒と、
勝手の隅の甘酒と、
枝やゆずり葉にのって、
へんこらへんこら、ござった。


福井
猫が嫁入りすりゃ鼬がなあこぞ、
二十日鼠が二升樽さあげて、
おいと飛んだら鼻柱、ちょいちょい、
はやせはやせ、
早や夜が明けるぞ、 ちょいちょい。


富山
竹に短冊、七夕さまよ、
この手をあげてくだせんよ、
猫が米かつ、鼠がはかるよね、
うちのおやじが、見てはいかのやと考えた。




雑謡


東京
人真似小真似、酒屋の猫が、
田楽焼くとて、手を焼いた。


千葉
人真似小真似、酒屋の猫が、
粕食って逃げた、樽背負って逃げた。


東京・群馬
人真似小真似、猫の真似ぁ出来ね。


東京
異人ぱくぱく、猫の糞。


埼玉
勝ちゃん鰹節、鰊の子、
猫に食われて口惜しいか。


群馬
かっちゃん、かつぶし、なまりぶし、
猫に追われてきゃっきゃっきゃ。


千葉
おばさん、この猫どうするの、
大きくなったら学校へ、
学校のやつら、なまいきだ、
君だ、僕だ、白墨だ。


千葉 北辺田
べたべた叩かれて、
矢口山猫しっぽを切られて、 きゃんきゃん。


東京
そこを通るは何者じゃ、
人間だ、なに持って通る、
その米寄こせ、いやなことだ、
鼠の死んだの、おつけるぞ、
怖くないよ、 猫の死んだの、おつけるぞ、
怖いよ、怖いよ。


東京
猫じゃ猫じゃとおっしゃますが、
その猫が下駄はいて杖ついて、
絞りの浴衣で来るものか、
おっちょこちょいのちょい。


青森
ちっぺ、ちっぺ、ちっぺ、ちっぺ、
かながしら、 猫に取らえで泣いでかがった。


秋田
熊(ざま)見れ雑魚(ざっこ)、猫噛(かじ)だ。


岩手
泣き泣きべっちょ、お山の竹(たあけ)の子、
猫背負っておっかえった、
泣いたり吠えたり糞ったれ、
掻(さ)あらえないでかんまけた、
やなぎの箸(はあし)でかっぽいた。


岩手
泣き泣きべっきょ、お山の竹の子、
猫(ねご)しょっておけやいった。


岩手
泣き泣き別当、お山さ猫三匹、
背負って走せろ。


岩手
泣き面(づら)ごんぼ、お山に行って、
猫三匹背負って来う。


青森
泣げっつ、めっつ、
お寺の前さ赤猫背負って、
白猫抱いて参れ参れ。


青森
泣げっつ、めっつ、お寺の前さ、
赤猫背負って、ぶっぶと跳ねろ。


青森
泣げっつ、ごんぼ、
赤猫背負(そつ)て黒猫抱いて、
お寺の前さ参れ参れ。

青森
泣げっつ、ごんぼ、お山の宝、
猫しょってまいれ。


青森
あねコねコねコ、かながしら、
猫にとられて泣いでかかった。


宮城
かっちゃん鰹節、なまりぶし、
猫にとられ大騒ぎ。


秋田
あのもせや、このもせや、 がっつぁもせや、
隣の猫もせや、 死んだとせや。


秋田
一筆啓上仕候、
猫にきんたま齧られ候、
軟膏つけても癒らず候。


宮城
ちんぷんかんぷん、
犬の糞、猫の糞、ぽう。


岐阜
あの子ぁどこの子、
山中の姥の子、
猫やいてこっきょ。


岐阜
あの子どこの子、ざいごの猫の子、
魚(とと)食ってにゃあご。


岐阜
泣く者蛙(かえろ)、怒るもの消炭(けしずみ)、
赤猫にゃぁご。


愛知
今泣いただあれ、 赤猫、白猫、穴掘ってくぐれ。


長野
いたち見目よし、猫の面杓子。


岡山
屋根の上を、 猫がどんこつくわえて通る、
見るがどんこつ。 岡山 お寺の坊さん猫ねらう、 どうしてや、蛸じゃもの。

岡山
お寺のぼんさん、
猫きらう、 そりゃまたどうして、蛸じゃもの。


山口
ねんねん猫の目に、
毛がまいこんだ、
痛かろ痒かろのけてやろ、
やっこらせとひっぱりのけたら、
またまいこんだ。


香川
うちの裏の三毛猫は、
おしろいつけて、紅つけて、
人に見られて、ちょいとかくす。


長崎
猫居れ、居れよ、
居んな、居んなよ。


長崎
姉ちゃんね、猫がね、
鼠を取ったんですものねえ、 姉ちゃん。


佐賀
すちゃらがちんちん、 子猫が手を振る首を振る、
おつむにかぶせた紙(かん)袋、
ごっそがさがさ、ごっそがさがさ。



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北原白秋(1975)『日本伝承童謡集成〈第五巻〉歳時唄・雑謡編』三省堂